私が長年愛用しているDaVinci Resolveは、プロの現場でも使われるほどの高機能ながら、無料で始められる最高の動画編集ソフトです。動画編集、カラーコレクション、VFX、音声編集の全てがこのソフト一つで完結します。
この記事では、私が実践しているDaVinci Resolveの基本的な使い方から、インストール、初期設定、編集、そして最終的な書き出しまで、初心者にも分かりやすく全手順を解説します。
DaVinci Resolveとは?基本を理解する

DaVinci Resolveを使いこなす第一歩は、このソフトがどのような思想で設計されているかを理解することです。単なる動画編集ソフトではなく、映像制作の全工程を統合したパワフルなツールです。
オールインワンのポストプロダクションスイート
DaVinci Resolveは、プロの動画編集、カラーコレクション、VFX、音声編集を一つのアプリケーションに統合したソリューションです。ソフトウェアは「ページ」と呼ばれる専門のワークスペースに分かれており、ワンクリックで各工程をシームレスに行き来できます。
この統合アプローチの最大の利点は、複数のソフト間を行き来する「ラウンドトリップ」をなくせる点です。編集、エフェクト、音声の各作業が即座にプロジェクト全体に反映され、より流動的で効率的なクリエイティブ作業を実現します。
Blackmagic Designの戦略|なぜ無料版が強力なのか
DaVinci Resolveを開発するBlackmagic Designは、プロ向けのカメラや放送用機材を製造するハードウェア企業です。無料版がこれほど強力なのは、同社の優れたビジネス戦略に基づきます。
高品質な編集ソフトを無償で提供することで、巨大なユーザーベースを形成します。ユーザーがDaVinci Resolveのワークフローに慣れ親しむと、より高度な機能を求めて有料のStudio版や、作業効率を劇的に向上させる専用キーボードなどのハードウェア購入へと自然につながります。無料版は、同社のハードウェアエコシステムへの入り口として機能しているのです。
DaVinci Resolveの準備|インストールと推奨スペック

DaVinci Resolveを始める前に、ご自身の目的に合ったバージョンを選び、PC環境を整えることが重要です。ここをしっかり押さえることで、後の編集作業が格段にスムーズになります。
無料版と有料版(Studio)の違いを比較
多くのユーザーにとって、無料版は十分すぎるほどの機能を備えています。しかし、よりプロフェッショナルな機能を求めるなら、買い切り型のStudio版が選択肢となります。私が考える主な違いを表にまとめました。
機能カテゴリ | DaVinci Resolve(無料版) | DaVinci Resolve Studio(有料版) | 重要性と影響 |
価格 | 無料 | 買い切り(約47,980円) | 長期的に見ればStudio版はコスト効率が高いです。 |
解像度とフレームレート | 最大4K UHD、60fpsまで | 最大32K、120fpsまで | ほとんどの用途では無料版で十分です。 |
GPUアクセラレーション | 限定的(WindowsでのH.264/H.265デコード非対応) | H.264/H.265に完全対応、マルチGPU対応 | Windowsユーザーの場合、Studio版は編集と書き出しが劇的に高速化します。 |
DaVinci Neural Engine (AI) | 顔認識など一部機能のみ | Magic Mask、Voice IsolationなどAIツールがフルで使える | 複雑な作業を自動化し、ワークフローを劇的に加速させます。 |
ノイズリダクション | 利用不可 | 世界最高クラスのノイズ除去ツールを搭載 | 低照度で撮影した映像のクオリティを上げるには必須の機能です。 |
共同作業 | 利用不可 | Blackmagic Cloudを介した完全な共同作業に対応 | チームで一つのプロジェクトを同時に編集する場合に必要です。 |
推奨PCスペック|快適な動画編集のために
公式の最小システム要件は、あくまでソフトウェアを起動するための最低ラインです。私が快適な動画編集を行う上で推奨するスペックは以下の通りです。DaVinci Resolveは特にGPUの性能に依存するソフトです。
コンポーネント | HD / SNS向けワークフロー (最小推奨) | 4K / プロフェッショナルワークフロー (強く推奨) |
OS | Windows 10/11, macOS 13以降 | Windows 10/11, macOS 13以降 |
CPU | Intel Core i7 / AMD Ryzen 7 / Apple M1 | Intel Core i9 / AMD Ryzen 9 / Apple M1 Pro/Max |
RAM | 16 GB | 32 GB |
GPU | NVIDIA RTX 3060 / AMD RX 6700 XT | NVIDIA RTX 4070 / AMD RX 7800 XT |
VRAM | 8 GB | 12 GB – 16 GB |
ストレージ | OS/キャッシュ用にNVMe SSD, メディア用にSATA SSD | OS/キャッシュ用にNVMe SSD, メディア用にNVMe SSD |
インストールと初期設定の手順
スペックの確認が終われば、いよいよインストールです。Blackmagic Designの公式サイトからインストーラーをダウンロードします。個人情報を入力せずにダウンロードすることもできます。
インストール後、初回起動時に言語選択画面が表示されます。ここで日本語を選択しましょう。次に、作業を始める前に「環境設定」からいくつかの重要な設定を行います。「ライブ保存」と「プロジェクトバックアップ」を有効にして、予期せぬクラッシュからデータを守る設定は必須です。
DaVinci Resolveの基本的な使い方|7つのページを巡る

DaVinci Resolveのワークフローは、画面下部に並んだ7つの「ページ」を左から右へ順に進んでいくのが基本です。各ページの役割を理解すれば、迷うことなく作業を進められます。
ページ名 | 主な役割と機能 |
メディア | 🎬 プロジェクト設定、素材の読み込みと整理を行います。 |
カット | ✂️ 素材の確認やラフカットを素早く組み立てるのに特化しています。 |
エディット | 🎞️ 精密なトリミングや複雑なタイムライン作業を行うメインの編集ページです。 |
Fusion | ✨ VFXや本格的なモーショングラフィックスを作成するページです。 |
カラー | 🎨 プロレベルのカラーコレクションとカラーグレーディングを行います。 |
Fairlight | 🎵 音声の編集、ミキシング、マスタリングを行うページです。 |
デリバー | 🚀 最終的なビデオファイルを書き出すためのページです。 |
① プロジェクト管理とメディア整理(メディアページ)
動画編集は、素材を整理するところから始まります。メディアページは、プロジェクトの素材を管理する中心的な場所です。
新規プロジェクトの作成と設定
DaVinci Resolveを起動すると表示されるプロジェクトマネージャーで、新しいプロジェクトを作成します。プロジェクトを開いたら、右下の歯車アイコンから「プロジェクト設定」を開き、「タイムライン解像度」と「タイムラインフレームレート」を設定します。このフレームレートは後から変更できないため、素材を読み込む前に必ず設定してください。
素材の読み込みと整理
メディアページの左側にあるメディアストレージブラウザから、編集に使いたい素材を中央のメディアプールへドラッグ&ドロップで読み込みます。素材が増えてきたら、メディアプール内に「ビン」と呼ばれるフォルダを作成して、「映像」「音声」「画像」のように分類すると、後の作業が非常にスムーズになります。
② 編集の基本操作(カット&エディットページ)
素材の整理が終われば、いよいよ動画を組み立てていく編集作業に入ります。DaVinci Resolveには、目的の違う2つの編集ページがあります。
カットページとエディットページ
カットページは、スピードを重視してラフカットを素早く組み立てるのに最適化されています。一方、エディットページは、より精密な調整や複雑なエフェクトの追加など、本格的な編集作業を行うためのページです。私のワークフローでは、カットページで大まかな流れを作り、エディットページで細部を仕上げていきます。
基本的な編集テクニック
編集の基本は、タイムライン上でクリップを並べ、長さを調整し、不要な部分をカットすることです。
- クリップの配置|メディアプールからタイムラインへクリップをドラッグします。
- トリミング|タイムライン上のクリップの端をドラッグして長さを調整します。
- カット|レーザーツール(ショートカットキー|B)でクリップを分割します。
- リップル削除|不要な部分を削除し、後ろのクリップを自動で詰めます。
トランジションとタイトルの追加
映像のつなぎ目を滑らかにする「トランジション」や、説明を加える「タイトル」を追加して、動画のクオリティを上げましょう。画面左上の「エフェクト」ライブラリから、使いたいトランジションをクリップの間に、タイトルを映像の上のトラックにドラッグするだけで簡単に適用できます。文字の内容やデザインは、右上の「インスペクタ」で細かく調整します。
③ VFXとモーショングラフィックス(Fusionページ)
Fusionページは、映画のような特殊効果や複雑なアニメーションを作成するための非常に強力なツールです。レイヤーを重ねるのではなく、「ノード」をつなぎ合わせていく独特の操作方法が特徴です。
ノードベースのワークフロー
Fusionでは、一つ一つの処理が「ノード」という箱で表されます。例えば、「テキスト」ノードと「背景」ノードを「マージ」ノードで合成し、最終的な出力である「MediaOut」ノードにつなぐ、というように視覚的に処理の流れを構築します。
簡単なアニメーションタイトルの作成
具体的な例として、テキストがズームインしてくるアニメーションを作成してみましょう。
- Text+ノードを追加して文字を入力します。
- インスペクタで、アニメーションの開始フレームと終了フレームにキーフレームを打ちます。
- 開始フレームのサイズを小さく、終了フレームのサイズを大きく設定します。これだけで、テキストが動く簡単なアニメーションが完成します。
④ 色の調整(カラーページ)
DaVinci Resolveがハリウッドで支持される最大の理由が、このカラーページです。映像の色を補正し、作品の世界観を創り出す重要な工程です。
カラーコレクションとカラーグレーディング
カラーページでの作業は、大きく2つのステップに分かれます。
- カラーコレクション|映像の明るさやホワイトバランスを適正な状態に「修正」する技術的な作業です。
- カラーグレーディング|作品の雰囲気や感情を表現するために、特定の色味やスタイルを「創造」する芸術的な作業です。
基本的な色補正の手順
まずは映像を技術的に正しく補正することから始めます。波形スコープなどの客観的なツールを使いながら、プライマリーカラーホイールを操作して、映像の暗い部分(リフト)、中間部分(ガンマ)、明るい部分(ゲイン)のバランスを整えます。この補正作業が、後のクリエイティブなグレーディングの土台となります。
⑤ 音声編集(Fairlightページ)
映像において音声は非常に重要です。Fairlightページは、音声の調整、ミキシング、ノイズ除去まで行える本格的なデジタルオーディオワークステーションです。
音声のバランス調整とノイズ除去
まずは、会話、BGM、効果音の音量バランスをミキサーのフェーダーを使って調整します。声がこもって聞こえる場合は、イコライザー(EQ)を使って特定の周波数を調整し、明瞭度を上げることができます。エアコンの音のような背景ノイズが気になる場合は、「ノイズリダクション」エフェクトを適用すると、驚くほどクリアな音声になります。
⑥ 書き出し(デリバーページ)
全ての編集作業が完了したら、デリバーページで最終的な動画ファイルを書き出します。設定項目は多いですが、ポイントを押さえれば簡単です。
レンダー設定
最も簡単な方法は、YouTubeやVimeoといったプラットフォーム向けのプリセットを使用することです。カスタム設定を行う場合、ウェブ動画で一般的に使われる設定は以下の通りです。
- フォーマット|MP4
- コーデック|H.264
- 解像度|プロジェクト設定と一致させる
- 品質|「最高」に設定するか、ビットレートを指定します。
設定が完了したら、「レンダーキューに追加」ボタンを押し、右側のレンダーキューに表示されたジョブを確認して「すべてレンダー」をクリックすれば、書き出しが始まります。
スキルアップのための高度な機能と学習リソース

DaVinci Resolveの基本をマスターしたら、さらに高度な機能に挑戦してみましょう。学習を続けることで、あなたの映像表現の幅は無限に広がります。
AI機能の活用|DaVinci Neural Engine
Studio版限定の機能ですが、DaVinci Neural EngineというAIが、これまで時間のかかっていた複雑な作業を劇的に効率化してくれます。
- Magic Mask|人物やオブジェクトを自動で認識し、マスクを作成します。背景だけ色を変えるといった高度な調整が簡単です。
- Speed Warp|AIが中間フレームを生成し、非常に滑らかなスローモーション映像を作り出します。
- Voice Isolation|騒がしい環境で録音された音声から、不要なノイズを取り除き、会話だけをクリアに抽出します。
おすすめの学習方法|公式トレーニングとコミュニティ
DaVinci Resolveを深く学ぶ上で、最も信頼できるのはBlackmagic Designが提供する公式の無料トレーニングリソースです。日本語版の「ビギナーズガイド」という詳細なPDF教本も用意されています。
公式リソースで基礎を固めた後は、YouTubeのチュートリアル動画や、ユーザーが集うフォーラムを活用して、特定のテクニックを学んだり、問題解決のヒントを得たりするのがおすすめです。この組み合わせが、習熟への最も効果的な道筋です。
まとめ

DaVinci Resolveは、無料でありながらプロの現場で通用する、信じられないほどパワフルな動画編集ソフトです。編集からVFX、カラー、音声まで、映像制作の全てがここに詰まっています。
最初は多機能さに戸惑うかもしれませんが、この記事で解説した基本的なワークフローに沿ってページを一つずつ進んでいけば、誰でも素晴らしい動画を完成させることができます。ぜひ、DaVinci Resolveをダウンロードして、あなたの創造性を解き放ってみてください。