「自分だけのオリジナルキャラクターを、VTuberのように自由に動かしてみたい」と考えたことはありませんか。一枚のイラストに命を吹き込み、生き生きとした表情や動きを与える魔法のような技術、それがLive2Dです。私がこの技術に初めて触れたとき、その表現力の高さと、自分の描いた絵がそのまま動き出す感動に心を奪われました。
このガイドでは、全くの初心者の方でもLive2Dモデルを完成させられるように、イラストの準備段階から、実際にモデルを動かすまでの一つ一つの工程を、私の経験を交えながら徹底的に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたもLive2Dモデラーとしての一歩を踏み出しているはずです。
Live2Dモデル制作を始める前の基礎知識
本格的な制作に入る前に、Live2Dがどのような技術で、何が必要になるのかを理解しておくことが重要です。しっかりとした土台知識が、後の作業をスムーズに進めるための鍵となります。
Live2Dとは|イラストに命を吹き込む技術
Live2Dは、2Dイラストを3Dのように立体的に動かすことができる、日本発の革新的な表現技術です。パラパラ漫画のように何枚も絵を描く必要も、3Dソフトで一から立体物を作る必要もありません。たった一枚のイラストをパーツごとに分け、それらを再構築して動きを定義することで、キャラクターを動かします。
私が考えるLive2Dの最大の魅力は、「原画のタッチを最大限に活かせる」点です。3Dモデリングでは、元のイラストの雰囲気を完全に再現するのは難しい場合があります。しかしLive2Dは、イラストレーターが描いた絵そのものを直接動かすため、繊細な筆致や画風を一切損なうことなく、キャラクターの個性や感情をダイレクトに表現します。このアーティスト中心の思想が、VTuberやゲーム業界で広く支持されている理由です。
制作に必要なもの|PCスペックとソフトウェア
快適なLive2Dモデル制作には、適切な機材とソフトウェアが不可欠です。私が推奨する環境をリストアップします。
- イラスト制作ソフト|レイヤーを分けてPSD形式で保存できるソフトが必要です。CLIP STUDIO PAINTやPhotoshopが業界の標準です。
- Live2D Cubism Editor|モデルに動きをつけるための心臓部となるソフトです。公式サイトからダウンロードします。
- トラッキングソフト|完成したモデルを動かすために使います。VTube Studioが最も広く使われています。
- PC|CPUはIntel Core i5以上、メモリは8GB以上が推奨スペックです。特に、顔のトラッキングをスムーズに行うためには、ある程度のPC性能が求められます。
Live2D Cubism Editorには無料のFREE版と、全機能が使える有料のPRO版が存在します。初心者は、まずPRO版の42日間無料トライアルを最大限に活用して、最初のモデルを一体完成させることを目標にするのが最も効率的です。
機能比較 | FREE版の制限 | PRO版の制限 | クリエイターへの影響 |
商用利用 | 年間売上1,000万円未満の個人・小規模事業者のみ | 制限なし | 将来的に収益化を目指すならPRO版が必須です。 |
アートメッシュ数 | 制限あり | ほぼ無制限 | FREE版では細かいパーツ分けができず、高品質なモデル作成が困難です。 |
パラメータ数 | 制限あり | ほぼ無制限 | FREE版では設定できる動きの種類が少なく、豊かな表情が作れません。 |
デフォーマ数 | 制限あり | ほぼ無制限 | 顔の立体的な動き(XY)など、滑らかな動きはPRO版でないと難しいです。 |
物理演算 | 一部制限あり | ほぼ無制限 | 髪や服の自然な揺れの設定に差が出ます。 |
【実践】Live2Dモデルの作り方|3つの主要工程
ここからは、実際の制作工程を3つのステップに分けて詳しく解説します。一枚の静的なイラストが、どのようにして動くアバターへと生まれ変わるのか、その全貌を明らかにします。
工程1|イラスト制作と最重要の「パーツ分け」
私がLive2Dモデル制作において最も重要だと断言するのが、この「パーツ分け」です。最終的なモデルのクオリティは、この工程の丁寧さで9割決まると言っても過言ではありません。これは単に絵を切り分ける作業ではなく、キャラクターがどのように動くかを予測し、その動きを支えるための「設計図」を作る作業です。
塗り足しの徹底
パーツ分けで絶対に守るべきルールが「塗り足し」です。例えば、前髪と顔のパーツを分ける際、前髪で隠れるはずの額や眉の部分までしっかりと描き込む必要があります。この塗り足しが不十分だと、キャラクターが首を傾げたときに、何も描かれていない空白部分が露出してしまい、モデルが破綻する原因となります。
レイヤー構造の基本
高品質なモデルを目指すなら、パーツを細かくフォルダ分けして管理することが不可欠です。私が基本としているレイヤー構造を紹介します。
- 顔|輪郭、右耳、左耳、鼻、口(上唇、下唇、口内)、右目(白目、瞳、上まつげ、下まつげ)、左目、右眉、左眉
- 髪|前髪、横髪、後ろ髪。さらに毛束ごとに細かく分けると、より自然な揺れを表現できます。
- 体|首、上半身、下半身、右上腕、右前腕、右手、左上腕、左前腕、左手など、関節ごとに分割します。
- 衣装|襟、リボン、スカートなど、独立して動かしたい装飾はすべて別のレイヤーに分けます。
初心者のうちは、公式や有志が配布しているパーツ分けテンプレートを参考にすると、どのような分け方が理想的なのかを効率的に学べます。
工程2|モデリング|アートメッシュとデフォーマ
パーツ分け済みのPSDファイルをLive2D Cubism Editorに読み込んだら、いよいよモデリング作業の始まりです。デジタル空間で、キャラクターに関節と動きの仕組みを組み込んでいきます。
アートメッシュの生成
アートメッシュとは、各パーツの上に生成されるポリゴンの網です。この頂点を動かすことで、イラストを変形させます。単純なパーツは自動生成で十分ですが、目や口のように繊細な動きが求められる部分は、手動でメッシュの頂点を丁寧に配置することで、意図通りで綺麗な変形が実現します。
デフォーマで動きを制御する
デフォーマは、アートメッシュを効率的に操作するための、目に見えない制御ツールです。私が多用するのは主に2種類です。
- 回転デフォーマ|関節のような単純な回転運動に使います。頭の傾きや腕の振りを設定するのに最適です。
- ワープデフォーマ|パーツを格子状のハンドルで囲み、自由な形に変形させる強力なツールです。顔の立体的な動き(上下左右を向く動き)や体のしなり、呼吸の表現など、有機的な動きのほとんどをこれで作成します。
これらのデフォーマを親子関係にして階層構造を作ることで、「頭全体の動きに追従しつつ、目だけは独立して動く」といった複雑な動きを構築していきます。このデフォーマの構造設計こそ、モデラーの腕の見せ所です。
工程3|物理演算とアニメーション設定
基本的な動きを定義したら、キャラクターにさらなる生命感を吹き込むための仕上げに入ります。物理演算で自然な揺れを、アニメーションで意図的な表情や動きを追加します。
物理演算で揺れものを設定する
物理演算は、髪や服、アクセサリーといった「揺れもの」に、キャラクターの動きに追従する自動的な揺れを与える機能です。設定は主に3つのステップで行います。
- 入力設定|どの動きが揺れの引き金になるかを決めます。通常は、頭や体の角度パラメータを設定します。
- 物理モデル設定|振り子の設定を調整し、揺れものの「材質」を定義します。長く重い髪、軽く硬いリボンなど、設定次第で様々な質感を表現します。
- 出力設定|計算された揺れの動きを、実際に髪のパーツなどに設定したデフォーマに反映させます。
この物理演算を適切に設定することで、キャラクターの存在感が格段に増します。
表情ライブラリの作成
配信などで使う「照れ」「驚き」「青ざめ」といった表情は、あらかじめ作成しておき、キーボードのショートカット一つで呼び出せるようにしておくと非常に便利です。
これは、表情用のパラメータ(例えば、頬染め用アートメッシュの不透明度を0から100に変えるパラメータ)を作成し、それを有効にするだけの短いアニメーションクリップとして保存します。これらのクリップを表情ファイルとして書き出すことで、VTube Studioなどのアプリでホットキーに割り当てられます。
完成したモデルを動かしよう!書き出しからVTube Studio連携まで
全てのモデリングが完了したら、いよいよモデルをエディタの外に出し、自分のアバターとして動かす最終段階です。正しい手順で書き出し、トラッキングソフトと連携させます。
モデルの書き出し|ランタイム用のデータ作成
Live2D Cubism Editorで作成したモデルは、外部のアプリケーションで使うために専用の形式で書き出す必要があります。この操作により、モデルの形状データ(.moc3)や物理演算データ(.physics3.json)、テクスチャファイルなどが一つのフォルダにまとめて生成されます。
私がここで絶対に忘れないようにしているのは、書き出し設定で「物理演算設定ファイルを書き出す」にチェックを入れることです。これを忘れると、せっかく設定した髪の揺れなどが一切反映されなくなってしまいます。
VTube Studioで動かすための設定
業界標準のトラッキングソフトであるVTube Studioにモデルを導入し、自分の動きと同期させるための設定を行います。
- モデルのインポート|書き出したモデルのフォルダを、VTube Studioが指定する「Live2DModels」フォルダに丸ごと入れます。
- 自動セットアップ|VTube Studioを起動し、自分のモデルを読み込みます。初回読み込み時に表示される自動セットアップを実行すると、顔の動きなどが自動でモデルに反映されます。
- カメラのキャリブレーション|WebカメラやiPhoneを接続し、キャリブレーションを行います。これにより、ソフトがあなたの真顔や表情の可動域を正確に認識し、トラッキング精度が向上します。
- キーバインド設定|作成した表情ファイルを、キーボードの好きなキーに割り当てます。これで、配信中にワンタッチで表情を切り替えることが実現します。
制作は依頼するのも一つの手|費用相場と依頼のコツ
Live2Dモデル制作には、イラストとモデリングという二つの専門スキルが求められます。「イラストは描けるけどモデリングは難しそう」「手っ取り早く高品質なモデルが欲しい」という場合、プロのクリエイターに制作を依頼する「コミッション」も賢い選択肢です。
Live2Dモデル制作の費用相場
制作依頼の費用は、依頼内容やクリエイターの実績によって大きく変動します。一般的な市場価格の目安を理解しておくと、予算計画が立てやすくなります。私が調査した相場観は以下の通りです。
サービス内容 | 個人クリエイターへの依頼 | 制作会社への依頼 |
パーツ分けイラスト制作のみ | 3万円 ~ 5万円 | 16万円 ~ 20万円 |
モデリングのみ(イラスト持ち込み) | 1万円 ~ 5万円 | 20万円 ~ |
フルパッケージ(デザイン~モデリング) | 5万円 ~ 15万円 | 30万円 ~ 40万円 |
追加モーション・表情(1点あたり) | 5,000円 ~ 1万円 | 5,000円 ~ |
nizimaやSKIMA、ココナラといったスキルマーケットで、自分の画風の好みや予算に合ったクリエイターを探すのが一般的です。
失敗しない依頼のポイント
クリエイターにスムーズに作業してもらい、理想のモデルを手に入れるためには、要望を明確に伝えることが何よりも重要です。依頼文を作成する際には、以下の要素を必ず含めるように心がけましょう。
- キャラクターの参考資料|キャラクターの見た目がわかるイラスト。できれば正面、側面、背面が揃っている三面図が理想です。
- キャラクターの設定|明るい、クール、内気など、キャラクターの性格を伝えます。性格によって似合う表情や動きが変わってきます。
- 希望する可動域|顔の動きだけで良いか、体全体の動きも必要かなどを具体的に伝えます。
- 必要な表情差分|笑顔、怒り、悲しみ、驚きなど、欲しい表情をリストアップします。
- 使用用途|VTuberとしての配信で使う、ゲームに組み込むなど、主な使い道を伝えます。
まとめ
Live2Dは、あなたの描いたイラストに命を吹き込み、世界に一つだけのアバターを創造するための、非常に強力で魅力的なツールです。その制作プロセスは、戦略的な「パーツ分け」から始まり、精密な「モデリング」、生命感を加える「物理演算」、そして最終的な「アプリへの統合」へと至る、奥深くも体系的な道のりです。
各工程には専門的な知識が求められますが、この記事で解説した手順に沿って一つ一つ進めていけば、初心者の方でも必ず自分だけの動くモデルを完成させることができます。もし途中で壁にぶつかったとしても、公式のチュートリアルやコミュニティなど、あなたを助けてくれるリソースは豊富に存在します。さあ、このガイドを羅針盤として、静的なイラストが躍動するアバターへと変貌する、創造の旅を始めてください。